秋の果樹カメムシ対策|生態と効果的な防除農薬の選び方・散布のポイント
秋の収穫期を迎える果樹園地において、カメムシ類による吸汁害は出荷量の減少や品質低下に直結する大きな問題です。特に8月下旬から10月にかけては、山林での餌の枯渇や羽化した成虫の増加により、果樹園へ集団で飛来する危険性が高まります[1, 2]。
本記事では、秋に被害が多くなるカンキツとカキを中心に、リンゴ・ナシの被害の特徴や生態の違い、防除農薬を選ぶ際のポイントを解説します。
果樹カメムシ類の違いと生態
秋に飛来する主な種類(ツヤアオ・チャバネアオ・クサギ)
果樹を加害する代表的なカメムシは、ツヤアオカメムシ、チャバネアオカメムシ、クサギカメムシの3種です[1, 7]。
- ツヤアオカメムシ:全体がツヤのある鮮やかな緑色で、秋口に夜間の光(外灯など)へ強く引き寄せられて集団飛来します[3, 7]。
- チャバネアオカメムシ:体長10〜12mmほどでやや小ぶり、背中の羽が茶褐色で、夏から秋にかけて広く活動します[1, 3]。
- クサギカメムシ:全体が茶褐色〜斑模様の渋い色で大きめの種です[1, 6]。秋が深まると越冬場所を探して果樹園や住居周辺へ移動します[1, 5]。
夜間の活動・飛来の特徴(夜行性について)
果樹カメムシ類は昼間よりも「夜間」に活動や遠距離の移動が活発化する傾向があります。昼間に園地を見回して姿が見えなくても、夜間に飛来して被害が拡大しているケースが多いため注意が必要です[2, 3]。
- ツヤアオカメムシ(強夜行性・強い走光性):夜間飛来が特に激しい種です。光に強く引き寄せられる性質(走光性)があり、日没後から夜間にかけて外灯や照明の周り、果樹園地へ集中飛来して吸汁します[3, 7]。
- チャバネアオカメムシ(昼夜活動・夜間飛来):昼間も果実にとどまって活動しますが、山林から果樹園地へ長距離移動して飛来するのは夜間が中心です[1, 3]。
- クサギカメムシ(昼夜活動):昼間も日当たりの良い場所で活発に飛び回りますが、秋の越冬期(10月頃)が近づくと夜間に建物や園地へ集団移動します[1, 5]。
作物別・飛来する主なカメムシ
| 対象作物 | チャバネアオ | ツヤアオ | クサギ | 飛来・加害の傾向 |
|---|---|---|---|---|
| カンキツ | ◎ | ◎ | ○ | ツヤアオ・チャバネアオが中心。秋の着色期に夜間の飛来が急増します[3, 4]。 |
| カキ | ◎ | ◎ | ◎ | 3種とも非常に多く飛来。秋口の果実肥大期〜収穫期に集中して発生します[4, 5]。 |
| リンゴ | ○ | △ | ◎ | クサギカメムシの比率が高め。秋の収穫期にかけて山林から飛来します[6]。 |
| ナシ | ◎ | ○ | ◎ | チャバネアオ・クサギが中心。晩生種の成熟期(8〜9月)に飛来します[6]。 |
カメムシのライフサイクルと活動適温
カメムシの幼虫期は6月〜7月頃で、周辺のスギやヒノキの林で球果(毬果)の汁を吸って成長します[1, 7]。この時期の幼虫には羽がないため、果樹園へ飛んでくることはありません[1]。
7月〜8月にかけて山林で羽化した「成虫」が、8月下旬〜10月頃にスギやヒノキの球果が硬くなったり減ったりすると、餌を求めて果樹園地へ一斉に飛来します[1, 2]。
なお、活動に適した気温は20℃〜28℃前後です[1, 7]。真夏の猛暑期(35℃以上)は日中の活動が落ち着きますが、秋口に入り気温が20℃〜25℃前後に下がると急激に活動が活発化します。気温が10℃以下になると飛ぶのをやめ、落葉の下や建物の隙間などで冬越しに入ります[1, 5]。
防除農薬を選ぶ前に確認すること(果樹防除のポイント)
1. 散布の基本ルールとタイミング(登録内容・飛来初期・散布方法)
農薬を使用する際は、必ずラベルの登録内容(適用作物名・希釈倍数・収穫前日数・総使用回数)をご確認ください[1]。特に収穫が近い秋の防除では「収穫前日数(何日前まで使えるか)」の確認が最重要です[1]。
また、カメムシ類は園外から次々と飛来するため、病害虫発生予察情報や園内の見回りで最初の飛来を確認したタイミング(飛来初期)で散布することが被害を抑えるカギとなります[2, 7]。樹の内側や葉裏、果実の隙間まで薬液がしっかり行き渡るよう、十分な散布水量を確保して丁寧に吹き付けましょう[1]。
2. カメムシ防除に効果的な薬剤系統(合ピレ系・ネオニコ系)
果樹カメムシ類の防除では、主に合成ピレスロイド系(合ピレ)とネオニコチノイド系(ネオニコ)が非常に優れており、現場で広く使われています[1, 7]。
- ネオニコチノイド系(4A):残効性(効果の持続力)や吸汁阻害効果に優れ、飛来が続く時期の継続的な密度抑制に適しています[1, 7]。
- 合成ピレスロイド系(3A):強い速効性と、カメムシを寄せ付けない飛来防止(忌避)効果に優れ、飛来が始まった直後の緊急防除に高い効果を発揮します[1, 7]。
収穫までの日数や飛来状況に合わせて、これらの系統を上手に使い分けることが防除成功のポイントです[1, 7]。
各果樹で使用される代表的な防除農薬の一例
各果樹のカメムシ類防除で使われる代表的な薬剤の一例です[1, 7]。
実際の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録内容およびラベルの記載事項をご確認ください。(2026年8月20日現在)[1]
| 農薬名 | IRAC | 対象作物 | 希釈倍数 | 収穫前日数 | 使用回数 |
|---|---|---|---|---|---|
| アルバリン顆粒水溶剤 | 4A | カンキツ、カキ、リンゴ、ナシ | 2000倍 | 前日 | 3回 |
| ダントツ水溶剤 | 4A | カンキツ、カキ、リンゴ、ナシ | 2000〜4000倍 | 前日 | 3回 |
| アグロスリン水和剤 | 3A | カンキツ カキ リンゴ* ナシ |
2000倍 1000〜2000倍 1000〜2000倍 1000〜2000倍 |
7日前 前日 前日 前日 |
3回 3回 2回 3回 |
| ロディー乳剤 | 3A | カンキツ | 2000倍 | 7日前 | 4回 |
| ロディー水和剤 | 3A | カキ リンゴ ナシ |
1500倍 1000〜1500倍 1000倍 |
7日前 前日 前日 |
3回 2回 2回 |
| テルスターフロアブル | 3A | カンキツ カキ リンゴ ナシ |
2000倍 | 前日 | 3回 2回 1回 2回 |
| キラップフロアブル | 2B | カンキツ** カキ リンゴ |
1000〜2000倍 2000倍 2000倍 |
21日前 7日前 14日前 |
2回 |
** キラップフロアブルはカンキツのカメムシ登録がありません。
果樹別における秋の被害特徴と発生ピーク
【カンキツ】果汁漏れ・腐敗・早期落果と品質低下
極早生・早生温州みかんをはじめ、秋に着色・成熟を迎えるカンキツ類はカメムシの絶好の標的です[3, 4]。
- 秋の被害の特徴:成熟期の果実が吸汁されると、果皮の油胞がこわれて斑点状の傷になり、果汁漏れが発生します[3, 4]。そこから腐敗菌が入って青かび病・緑かび病などを起こし、早期落果につながります。また、果肉が傷んで食味や糖度が著しく落ち、出荷不能や日持ち性の低下を引き起こします[3, 4]。
- 発生ピーク:9月〜10月の着色期前後に飛来が急増し、特に夜間の飛来・加害が多く見られます[3, 4]。
【カキ】収穫直前の果肉スポンジ化と凹凸変形
カキはカメムシ類の飛来に対して特に敏感な果樹です[4, 5]。
- 秋の被害の特徴:8月以降の果実肥大期から収穫期にかけて吸汁されると、吸汁部位の成長が止まり、果皮に深いへこみ(凹凸変形)ができます[4, 5]。さらに果肉内部が茶色く変色し、水気や甘みが抜けてスカスカになる「スポンジ化」を起こします[5]。これにより秀品率が大きく下がり、商品価値を失って出荷や加工ができなくなります[4, 5]。
- 発生ピーク:8月下旬〜10月の収穫直前にかけて山林からの飛来ピークを迎えます[4, 5]。
【リンゴ・ナシ】果肉のコルク化とくぼみ変形
リンゴやナシも秋の成熟期にかけて飛来被害を受けます[6]。
- リンゴの被害:秋口に吸汁された部分がくぼみ、果肉内部に茶色の硬い組織(コルク化)ができて食感が悪くなります[6]。等級が下がり、市場価値の低下につながります[6]。
- ナシの被害:晩生種(新高・王秋など)の収穫前(8月〜9月)に吸汁されると、色づきが悪くなったり、へこみや果肉の軟化・変質が起こり、商品価値を失う原因になります[6]。
- 農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構):『果樹のカメムシ類 防除マニュアル』
- 農林水産省:病害虫発生予察情報「果樹カメムシ類に関する注意報・警報」
- 愛媛県病害虫防除所:「かんきつにおけるツヤアオカメムシ・チャバネアオカメムシの秋季飛来動向と被害防止対策」
- 和歌山県農業振興課・果樹試験場:「カンキツおよびカキにおける果樹カメムシ類の発生予測と秋期防除対策」
- 奈良県農業研究開発センター:「カキ果実における果樹カメムシ類の吸汁被害解析と発生生態」
- 長野県野菜花き試験場・病害虫防除所:「リンゴ・ナシにおける果樹カメムシ類の吸汁痕被害と秋期の防除適期」
- 福岡県農林業総合試験場:「果樹カメムシ類3種の飛来予測手法と薬剤防除効果の検討」
















